日系ブラジル人教会レポート2:愛知県知多郡

12月17日(水)早朝、名古屋駅に着いた私たちを迎えてくれたのは、愛知県知多郡東浦にあるバチスタ・ビダ教会牧師の宮里マルコ牧師と、通訳兼アシスタントのミランダ・タイナーさん。日系2世のマルコ牧師は十年以上日本に暮らし、その間職を転々としながらも牧師をつづけ、ここ東浦にて3年前から教会を牧会している。ミランダさんは、なんとまだ15歳。日系4世の彼女は、7歳までブラジルで暮らしていたが、その後は日本の公立小学校・中学校で教育を受けたたため、『日本語で話すほうが慣れている』というバイリンガル。日系ブラジル人コミュニティーでは、たいていの場合3世までは日本語が話せないかまたは片言程度の会話レベルであるらしい。しかし、タイナーさんのような4世の若者は、言葉も文化も日本慣れしており、言葉においては何の不自由もない。今回の愛知県知多郡の訪問では、このお二人に加え、マルコ牧師の同僚でもある、バチスタ・ビダ教会半田の牧師であるクラウジネイ牧師を含む3名からお話を聞いた。



(写真:宮野マルコ牧師家族とミランダ・タイナーさん。バチスタ・ビダ教会にて)




マルコ牧師が牧会するバチスタ・ビダ教会東浦では、現在教会員は、80名から100名ほどの人が通っている。1名のみ日本人で、あとはブラジル人だという。12月中旬の時点で、約6-7家族が失業中であった。実は、ミランダさんの家族は、失職し住まいを失ったマルコ牧師の兄弟一家とともに暮らしている。合計8名の『家族 』の内、現在職があるのは、タイナーさんのお父さん1名のみ。しかし、一家の稼ぎ手であるタイナーさんのお父さんの収入も減額されているのだ。以前は、派遣社員でも月45万円程度の収入を得ていたが、現在は20-25万円程度だという。最近25年ローンで家を購入したばかりで、月々14万円程度の支払いがあるという。

どうして派遣社員で家が購入できたのだろうか?

サブプライムローンとも思えるこのローン問題は、私たちが滞在中何度も耳にする話だった。実は、1年ほど前から愛知県の日系ブラジル人を対象に、住宅販売営業が頻繁に行われていたという。派遣社員であっても、在職証明書のみで家のローンが組めるという銀行との安易な取引もあったらしい。

そのような住宅販売営業の甘い言葉と、あまりにも手軽なローン組みを勧める銀行に動かされたのは、40-50代の日系3世の親たちの『子供に対する思い』だったのかもしれない。インタビュー中、タイナーさんは親は『自分たちのために』家を買ったという表現を使っていた。3世の親たちは、日本語が堪能で日本でも同化できる可能性を十分に秘めた子供たちのために家を残すつもりで、家を購入したのかもしれない。4世の子供たちの安定した日本での暮らしのための投資ともいえる。

しかし、そのようなローン返済が可能なのも、派遣の仕事があればのことだ。現在、職を失い、高利金融機関から高利子(12-20%)で借金をし、裁判沙汰になっているケースも多々あるそうだ。これを、日系ブラジル人たちの『自己責任』と片付けられる問題なのか?ローンも残して『ブラジルに帰りなさい』ともいえない複雑さを痛感する話だ。









(典型的な一軒家:岐阜県美濃加茂市にて)




マルコ牧師・クラウジネイ牧師・タイナーさんから、日系ブラジル人の派遣の構造と失業後の流れについて伺ってみた。
クラウジネイ牧師は、まだ教会が小さいために派遣社員としても働いていた。以前は、60人程度の会社だったが、毎週5名ずつクビにされていったらしい。クビを切られる順番は、たいていの場合、①独身者、②日本語が話せない人、③既婚の女性、④既婚男性、の順番らしい。解雇告知は、ある程度余裕のある会社は、一か月だけ休職という形にし、60%の賃金を支払う(このように休職扱いにするのは、全体の10%に過ぎないらしい)。



ほとんどの場合、急に解雇告知がされるケースが多い。失業後、3か月は雇用保険が効くが、収入は通常の60%程度(月収15-16万円)。クラウジネイ牧師にとって、一番つらかったことは、『自分がいることで誰かがクビにされている』気持ちにさせられることであった。たとえ、自分の立場が守られても、その代償に誰かのクビが切られているという現実。明日は我が身という緊張感。その中で仕事を続けるのは、精神的にも相当つらかったと思われる。

(知多郡のブラジル系会社のオフィスにて)





たいていの場合、派遣会社から提供される寮に住んでいるため、解雇告知を受けた後、約1週間で退去させられる例が多い。この不況で、ここ2ヶ月間に派遣会社が次々に全部で70棟のアパートを手放したらしい。都や県が運営する簡易宿泊所のような場所があるのか尋ねたところ、「何も情報をもっていない」という。生活保護に対する知識も全くもっていない。特に日本語を話すことのできない日系ブラジル人の情報が、あまりに不十分であることを感じる。



職と住まいを失ったあとは、とにかく『友人・知人』の家を転々とする。これは、母国ブラジルでは、もともと近所同士が助け合い、ひとつの家族として関係づくりをする文化を反映しているからかもしれない。しかし、職のある友人の家にいられるのは、その知人が働ける期間のみ。知人も職を失えば、すぐに出ていかなくてはならないこともある。そのため、マルコ氏の教会では、友人の面倒をみている家族(ミランダさんのような家族の例)に、優先的に食べ物などの物資支援を行うことで、生活費の補助をしようとしている。







                   (写真:バチスタ・ビダ教会)




しかし、友人も知人もいない人はどうするのだろう?マルコ氏の知り合いで、ある会社でウェブデザイナーをしている方からこんな話を聞いた。


今回の不況で職と家を失った若者女性たちが、インターネットチャットサイト(ポルトガル語のみ。ブラジル人専用)を通じて、男性と知り合い、売春行為をしてチャットサイトで出会った男性の家にとめてもらうケースが出てきているらしい。ブラジル人コミュニティーの中での、若者の麻薬の問題も深刻だ。若年層にとって、頼るべき知人・友人も同じく雇用問題の最中にいるのだから、お互いを頼りたくても頼れない場合があるかもしれない。


その点、教会という場所は、幅広い年齢層が参加する共同体であるため、世代を超えた協力がしやすい。教会という『つながり』の中で、タインナーさんの家に居候しているマルコ先生の兄弟の家族のように、知人・友人とも似たつながりあいの中で助け合うことができるのかもしれない。肉親でなくても、家族のように頼れる知人との関係を築くことのできる教会の大切さを思わされた。




(写真:バチスタビダ教会の若者たち)


現在、マルコ牧師の教会では、協力教会からだけでなく、神奈川の輸入食品会社などからも食品・物資の寄付を受け始めている。効率的に、そして最も支援を必要としている人々へと物資を送り、しかも長期的な対策へとつなげていくために、コープのような共同購入システムを作ることも考えている。無料で寄付を配布するだけでなく、通常の値段よりも安く食品・日用品を買えるメンバー制の購入システムをつくり、そのメンバーシップ費用を、現場で働くスタッフの給料にあてることで、新しい雇用も生みだすことができる。このことに関しては、マルコ氏の知人であるビジネスコンサルタントの方も協力してくれているらしい。



人と人とのつながりが、新たな発展を生み出す・・・来年初頭にはピークを迎えるこの失業問題に備えるかのように、神の見えない手によってセーフティーネットが紡がれているのを感じる。